安全は自分で守るもの

バルセロナテロ報道からの学び  

こんにちは。セキュリティ・アドバイザー白井です。天候が不安定ですね。急な落雷・豪雨にはくれぐれもご注意ください。  

さて、今日は標題のように、山のようにあるバルセロナテロ報道記事の中から非常に学びの多い一本を見つけましたので、その記事をコピペ紹介した上で、要点をお話してみます。まずは、記事ですが、2017年8月24日に配信された山陽新聞digital版です。ではどうぞ。なお文中の《》の数字は私が説明のために入れたものです。


(コピペ)  

バルセロナで岡山・倉敷の女性がテロ遭遇 緊迫の現場「とっさに逃げた」  スペイン北東部バルセロナの世界的観光名所「ランブラス通り」で17日(日本時間18日)、ワゴン車が歩道に突っ込み、100人以上が死傷したテロ。岡山県倉敷市の女性(58)は友人2人と参加したツアー旅行中に遭遇し、《1》近くの商店に身を隠して事なきを得た。事件から1週間。「何が起きたのか。

《2》自分で自分の身を守るしかないと、とっさに逃げた」と緊迫の現場を振り返った。  異変を感じたのは当日午後5時(日本時間18日午前0時)すぎ、6泊8日の行程を締めくくる自由行動の時間だった。ランブラス通り付近の路地を友人2人と散策中、《3》通りの方向から走ってくる観光客の集団と出くわした。緊急車両のサイレンが遠巻きに聞こえ、上空ではヘリコプターが旋回している。    

「街が突如、物々しい雰囲気に包まれた。『テロ』という言葉が脳裏をよぎったが、どこで何が起きているのか全く分からず、《4》安全そうな所へ逃げ込んだ」。 《5》駆け込んだのは通りから約50メートル東に位置するアイスクリーム店だった。英国人家族ら10人近くの観光客と身を潜め、店長男性がシャッターを下ろしてかくまってくれた。気温が30度ほどだった屋外と異なり、冷房がよく効いていたのを覚えている。 《6》「Many people died(大勢が死んだ)」と店員女性が英語で教えてくれた。インターネットの情報だった。店員からは《7》「容疑者は銃を乱射して逃走中」とも聞かされ、フェイクニュース(うその情報)とは知らず、不安を駆り立てられた。《8》倉敷の家族に安否を伝えようと<バルセロナで事件発生。店に逃げ込み 無事です。>と携帯電話メールを打ち込んだ。届いたのかどうか、返信はなかった。  

外の様子が全く分からないまま友人2人とアイス店の2階に続く階段に座り、時が過ぎるのをひたすら待った。《9》約2時間後の午後7時ごろ、シャッターをたたく音がした後、警察官から店を出るよう命じられた。容疑者を捜しているようだった。宿泊先のホテルは通りとは逆方向に5キロほどの所にあり、約2時間かけて歩いた。翌朝、ホテルのロビーで他のツアー参加者と顔を合わせて初めて「生きて岡山に帰れる」と安堵(あんど)した。  

《10》イスラム文化と共存し、テロの標的になりにくい安全な国という印象があり、スペインを選んだ。事件発生の2時間ほど前に散策したランブラス通りは沿道の並木が青空に映え、ひしめくカフェや土産物の露店は観光客たちの笑顔であふれていた。19日に帰国後、テレビのニュースで目にした事件直後の通りは血を流した負傷者が倒れ、様相は一変していた。  

「もしかしたら自分が犠牲になっていたかもしれない」―。女性は時間がたつにつれ、凶行に遭遇したという実感が強まっているという。  

「あの日以来、人混みを見ると恐怖心が込み上げてくる。《11》テロはどこで起きても不思議ではない時代になったのでしょうか」  

◇  バルセロナのテロ バルセロナ中心部のランブラス通りで17日午後5時(日本時間18日午前0時)ごろ、ワゴン車が歩道を約700メートルにわたって《12》ジグザグに走行し、観光客らを次々と殺傷した。18日未明にはバルセロナ南西120キロの町でも車が群衆に突っ込む事件があり、地元警察はグループ犯による連続テロとの見方を示した。

(コピペ終了)


■ 自動車テロの際には屋内に退避が原則  

この女性が、《1》近くの商店に身を隠して、《4》安全そうな所へ逃げ込んだ、《5》駆け込んだのは通りから約50メートル東に位置するアイスクリーム店だった、というのは自動車テロ対策の基本です。テロリストは《12》ジグザグに走行し、観光客らを次々と殺傷、しようとしますので、直近の店(どんな店でもOK)に逃げ込むことが最良の方策です。個人の家でも良いのですが、基本的に施錠してあってドアが開かないはずです。また、不法侵入者と見なされて家人に攻撃されることも有り得ます。  

しかし、万が一テロリストの車が目前に迫っているなら、壁にぴたりと身体を張り付ける、テロリストの車から街路灯が障害物に見えるように移動する、だけでも安全度は高まります。彼らの狙いはできるだけ多くの人々をひき殺し、あるいは撥ねることですから、車が大破するような運転を避ける傾向にあるからです。  

こうした観点から、普段から人通りの多い道、広場を歩く時には、壁沿い(商店沿い)に歩く方がテロ対策になります。ただし、他のリスク(スリ、かっぱらいなど)は高まる可能性があります。油断しないことです。


■ 自分の身は自分で守る、は世界共通の常識  

《2》自分で自分の身を守るしかない、という意識が非常に大切です。テロにしろ、他のリスクにしろ、事件が起こるのは一瞬です。誰かと相談している暇はありません。もちろん、助けを頼むこともできません。咄嗟に正しく自己判断し、行動できるように訓練しておきましょう。  

《3》通りの方向から走ってくる観光客の集団と出くわした。緊急車両のサイレンが遠巻きに聞こえ、上空ではヘリコプターが旋回している、という状況に出くわしたら、どうすべきかを考えておくだけでも行動に違いが出てきます。いつも怯えながら暮らせと言っているわけではありません。ありませんが、あらかじめ知識を蓄え、そういう場面に遭遇するかも知れないという心の準備をしておくのです。

《11》テロはどこで起きても不思議ではない時代になったのでしょうか、という質問に対する答えは「イエス」です。


■ 緊急事態での英語能力  

《6》「Many people died(大勢が死んだ)」と店員女性が英語で教えてくれた、とありますが、世界中どの観光地に行ってもある程度の英語能力を持った店員、物売り、サービススタッフはいます。それが、彼らの生活を支える道具だからです。私たちは嫌々でも6年間以上英語を習わされています。ですから、話せなくても相手の言っていることは何とか分かる場合が多いのです。ですから、現地の人の英語に耳を澄ませましょう。聞き取れなければ「Please, again.」と相手に言うだけで、もう一度同じ話が聞けます。  

《7》「容疑者は銃を乱射して逃走中」とも聞かされ、フェイクニュース(うその情報)とは知らず、不安を駆り立てられた、とありますから、この女性の英語力は相当高いのでしょう。英語は、”The suspects are shooting guns and running away.”くらいでしょうか。これは、なまじ英語が理解できたばかりに不安を高めた事例です。ここでの問題は、英語能力そのものというより、ニュースの捉え方です。  

はっきり言って、混乱した現場を飛び交うニュース、情報には個人の一方的な思い込みや誇張が入り込むことが常に起こります。「話半分」に聞いておくことが必要でしょう。とは言っても命がかかっていますから、目前に迫り来る危険の情報には敏感にならざるを得ません。極端な情報が流れた場合には、できるだけ多くのニュースを集め、比較検討すると良いでしょう。


■ 安全の確認  

《8》倉敷の家族に安否を伝えようと<バルセロナで事件発生。店に逃げ込み 無事です。>と携帯電話メールを打ち込んだ、という彼女の行動は正しいものです。記事にはその後の話が出てきませんが、1時間ごとくらいに経過報告を送るとさらに家族は安心します。場合によると、それが他の人にも貴重な情報になるかも知れません。  

《9》約2時間後の午後7時ごろ、シャッターをたたく音がした後、警察官から店を出るよう命じられた、という記事からテロ事件の発生から当局が体制を整えて、逃亡した犯人たちを求めて近隣の聞き込みを一軒一軒しらみつぶしにして回るためには相当な時間がかかることが分かります。闇雲に急いで動こうとすると治安部隊に発砲される危険性さえあることを覚えておきましょう。


■  海外旅行先の選択    

《10》イスラム文化と共存し、テロの標的になりにくい安全な国という印象があり、スペインを選んだ、とありますが、思い込みです。スペインは客観的にはかなりテロの危険性の高い国だったのです。  

最初に言っておきますが、旅行業者はある観光国でテロが起こっても、だから旅行を控えましょう、などとは言いません。例えば、イギリス、フランス、トルコ、ベルギー、スペインなどテロの危険性のある欧州の国は数えきれませんが、テロを恐れて自粛していたら、観光会社はつぶれてしまいます。それに、テロの発生する確率は天文学的に低いからです。つまり、旅行会社に尋ねてもテロ回避はできないということです。  

しかし、私のようにテロ対策を専門にしている者は別の見方をします。テロには「旬」の時があるということです。最近の大半のテロがローンウルフ型テロリストの犯行によるものになってきているとは言え、背景にその国でテログループが活発に活動しているかどうかが大きなヒントになることが多いからです。そういう視点からは、ヨーロッパではイギリス、フランス、イタリア、スペインあたりは今が「テロの旬の国」です。観光旅行先としては避けるべきです。  

海外旅行先の候補を3つくらいに絞ったら、その国を外務省ホームケージの海外安全情報で探して、最近のテロ関連情勢をしっかり読み込んでください。客観的な情報が得られます。大切なことは、旅行先を決定し、旅行社に申込をする前に読むことです。決めてしまった後だと、自分の判断が正しかったことを証明する記事ばかりを追い求め、客観的に判断することができません。くれぐれも順番を間違えないでください。  

以上、少し長くなりましたが、あなたの旅行が安全になることを願っています。